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2016年3月の声明

 東北大学教職員有志の名において、私たちは安保関連法の速やかな廃止を求めます

 

 2015年9月19日未明、安保関連法が成立しました。この法律は、平和主義に立脚した戦後のわが国の在り様を大きく変容させ、わが国の立憲主義と民主主義を危うくするものです。日本社会は、いま、重大な岐路に立たされていると言わなければなりません。

 

 集団的自衛権を行使できるようにすることを眼目とする安保関連法は、長年の政府見解と法実践によって確立された憲法秩序を破壊し、法的安定性を覆すものです。このことは、法案の段階から、憲法研究者の大多数、最高裁判所長官、最高裁判所裁判官、内閣法制局長官の経験者、日本弁護士連合会など、多くの法律専門家によって、幾度となく批判されてきました。法案の内容が理解されるにつれ、一般国民の間でも法案に対する疑念や懸念の声も高まり、多くの市民が反対運動に参加しました。それにもかかわらず、政府の掲げる立法事実への疑いや法案に内在する矛盾に対する政府の説明責任が果たされず、そのために国会での審議が十分に尽くされないまま、採決が強行され、法案が成立したのです。議会制民主主義を空洞化し、学理と道理を蔑ろにする、このような立法の在り方に対し、学問の府にある者として、私たちは重大な危惧を抱かざるを得ません。

 

 立憲主義は、政治権力が憲法の制約の下に運用されなければならないことを求めます。それは、主権者たる国民が政治権力担当者に課した義務ともいうべきものです。時々の政権が、憲法の諸原理を恣意的に解釈して、自らに都合のよい政権運営をおこなうのであれば、その国は法治国家ならぬ人治国家であり、立憲主義国家の名に値しません。今般の安保関連法の成立は、まさにこのような禍根を、日本の未来にもたらすものです。

 

 戦後日本における平和主義の原則は、戦争がもたらした数多の犠牲の上に成立したものです。東北帝国大学に在籍した多くの学生・教職員も、当時そのような犠牲を余儀なくされました。その歴史を省みるとき、平和の実現に寄与することは、私たちが担うべき責務であると考えます。

2015年9月3日、私たちは東北大学教職員有志の名において、安保関連法案の成立に反対する声明を発表しました。短時日のうちに、東北大学にかかわる多くの教職員がこれに賛同したことは、この問題に対する教職員の強い危機感を示すものでもあります。いま、立憲主義の危機ともいうべき事態に対し、大学人としてなおその責を果たす途あるとすれば、それは、立憲主義と平和主義の原則に悖る安保関連法を直ちに廃止することを、社会に対して求めることであると信じます。

私たちは、わが国が、立憲主義と平和主義の矜持をもって、速やかに安保関連法を廃止することを切に願うものであり、ここに、その意思を表明するものです。

 

                            2016年3月19日

安全保障関連法に反対する東北大学教職員の会

              呼びかけ人

入間田宣夫(名誉教授、歴史学)

小田中直樹(経済学研究科教授、社会経済史学)

片山知史(農学研究科教授、水産学)

高倉浩樹(東北アジア研究センター教授、社会人類学)

糠塚康江(法学研究科教授、憲法学)

野家啓一(総長特命教授、哲学)

長谷川公一(文学研究科教授、社会学)

柳原敏昭(文学研究科教授、歴史学)

山下正廣(理学研究科教授、化学)

吉田正志(名誉教授、法制史)

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